
「ここ最近右肩が痛くてようやく良くなったと思ったら、今度は右ひじが痛くなった」
皆さん、このような経験はありませんか?
痛みは移動するのか? そんな疑問をお持ちになった方も多いかと思います。
この疑問を解くには、まず【痛み】の本質が何なのかを考えなくてはいけません。
そもそも痛みとは何なのか?
答えは簡単、身体からの『サイン』です。
痛みもコリも、身体からの危険信号を示す兆候(サイン)なのです。
その場所をこれ以上酷使しないよう、安静にしておくべきだ……という知らせです。
これは人類が生存する為に必要なメカニズムとも言えます。
では、仮にもし痛みもコリもなかったら、人はどうなるでしょう。
極論、骨が折れていようが人は動けます。多少ぎこちない動きではあっても、そのままやりたい事をやろうとするはずです。
そして、本当に動けなくなるまで人は無理を続けるでしょう。
大昔の人類にとって、動けなくなるという事は
・食糧が採れない
・天敵から逃げられない
などと、そのまま死に直結する状態でした。
動けなくなる=死
なのです。
つまり、自らの遺伝子を残し広げるという目的を持った生物として、動けなくなる前に兆候を感じ取ることは非常に重要だったと言えます。
痛みやコリが本来忌避するものではなく、より大きな危険を回避する為のありがたいものという事がわかります。
では、そんな痛みが何故移動するのか?
実は、移動はしていません。身体にとっての「優先順位」が変わっただけなのです。
わかりやすい例を挙げましょう。
普段、慢性的な肩こりの人がいるとします。
そんな方が、酷いぎっくり腰になりました。
動けないどころか立つことすらもできず、起き上がるだけでも悲鳴が出るような痛みが走ります。
ところが、肩こりについて尋ねてみると、
「……あまり感じない」
いや、今はそれ(肩こり)どころではないからですね。
身体にとって腰痛で動けない事の方が命の危機であり、肩こりは優先度が低くなっています。
決して肩が良くなったわけではありません。
ですが、これには身体のあるシステムが関与しています。
【周辺抑制】という働きです。
これをざっくりと説明すると、
「一番危険なところを本人にしっかり理解してもらって、そこを重点的に治してもらいたいから、それ以外の事はあまり伝えないようにしよう」です。
あちこちにサインを送るとかえってわからなくなるので、順位(優先度)を付けるわけです。
イメージとしては、身体に「全身危険度ランキング」みたいなものがあると思ってください。
例の方は、
一位:肩こり
から、
一位:腰痛
二位:肩こり
に、変わったわけです。再度言いますが、肩こりが改善したわけではありません。
もちろん、治療を受ける事で一番だった場所が本当に良くなり、順位が入れ替わるケースもあります。
いずれにせよ、身体は一番危険度が高い腰の痛みをサインとして強く送り、順位が下がった肩の情報は控えめになります。
これが「痛みが移動する」の真相であることが多いです。
「移動した」のではなく、「伝えるべき優先度が変わった」だけ。
なので、例の方はぎっくり腰がよくなればまた順位(優先度)が戻るので、肩こりも戻るでしょう。
移動したと感じる原因は、痛みのあった場所がその近くへ変わる事が多いからだと思います。
それは、痛みのあるところの周りが、痛いところを庇って負担増大するからです。
これは無意識なので、致し方ありません。痛むところだけの周囲も一緒に治療するべきでしょう。
ともかく、痛みやコリは身体からのサインです。
自らの身体からの知らせに、真摯に耳を傾けましょう。